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皆さんは塩や砂糖に賞味期限が無いのはご存知だろうか?
なぜだか分かりますか?
結論から言えば、その理由は常温状態で非常に安定であるため、腐敗の心配が無いからなのです。
では、そもそも食品が「腐る」とは一体どういうことだろうか。
今回はその腐敗の意味を少し深く掘り下げて考えてみたい。
まず「食品が腐る」と聞いて真っ先に思い浮かべることはどんなことだろう。
おそらく、「臭い」「酸っぱい」などの味覚的、嗅覚的な変化が一番に思い浮かぶのではないだろうか。
それが腐敗の結果であることはごもっともです。
腐敗をあえて文章に定義するなら、「空気中などに存在する細菌や酵母などが食品に付着し、その微生物が生命活動を行うために消費されたタンパク質、有機酸などが分解され、臭気を有する物質を産生する過程」
といったところでいいのではないだろうか。
そしてもう一つ知っておかなければいけないのは、近年やたらと取り沙汰されている「発酵」について。
発酵も腐敗も基本的には微生物の生命活動の過程であることには変わりありません。
その過程により、人間に有害な物質を産生する際に「腐敗」、有用な物質を産生する際に「発酵」と人間が呼び分けているだけである。
どちらも自然現象であり、基本的には何か人間が手を下して行うものではない。
それは発酵についても例外でなく、発酵食品は人間が手をかける部分はあるにしろ、基本的には「自然とできる物」であることを勘違いしてはいけない。
さて、話を腐敗に戻します。
では人間にとって有害である「腐敗」を止めるためにはどうすればいいのだろうか?
食品の腐敗を防ぐと言うことは、すなわち微生物の繁殖と育成を防ぐと言うことであり、生命活動が出来ないようにすること。
具体的には次の手法が考えられる。
1.温度を下げる
これはつまり、温度を下げ、場合によっては冷凍をすることにより、微生物自体の生命活動を止めてしまおうということ。
冷凍をすれば微生物による腐敗はほぼ確実に防げます。
ただし、それは食味の低下を防げることと同意ではなく、冷凍によっても脂肪の酸化は防げない。
これがいわゆる冷凍焼けと言うもの。
長期の冷凍には腐敗とは異なるリスクが伴うことを忘れてはいけない。
ちなみに、この手法は言うまでも無く「冷凍保存」であり、近年技術の進歩により多く用いられているもの。
2.食品に微生物そのものを繁殖させない。または空気に触れさせない。
空気に触れさせなければ食品は容易に腐敗はしない。
また微生物自体の付着を防げば同様に腐敗を避けることが出来る。
微生物の繁殖はpHにも大きく左右され、pHを下げることにより(つまり酸性に近づけることにより)微生物の繁殖をある程度抑えることができる点も覚えておきたい。
この手法は、コンフィ、真空パックなどだろうか。
3.食品中の水分量を減らす
微生物と言えど、生命を維持するためには水は必須。
その水分を減らすことが出来れば、微生物の生命活動を極端に鈍らせることが出来る。
ではどのように食品中の水分を減らすのか。
ここで重要になってくるのが「水分活性」と言う考え方です。
水分活性とは、「食品を入れた密閉容器内の水蒸気圧と、その温度における純水の蒸気圧の比」という言葉で定義され、この比が小さければ小さいほど食品に微生物が繁殖しにくい。
つまり、腐敗しにくいということ。
正確に言えば、重要なのは「食品中の水分量を減らす」ことでは無く、「食品の水分活性を下げる」ことなのである。
ではどうすればこの水分活性を下げることが出来るのかという疑問が出る。
これを知るために、さらに食品に含まれる水分には大きく分けて2種類あるということを説明したい。
まず1つ目は結合水と呼ばれるもので、食品中の分子に結合した水分のこと。
2つ目は自由水と呼ばれ、分子中ではなく、組織の間隙等に含まれている水分のこと。
前者は非常に結合が強く、蒸発しにくく、凍結もしにくい(融点は約-30℃)
氷点下であっても植物の組織が容易に凍結しないのはこのため。
一方後者は容易に蒸発し、当然融点は純水と同じ0℃と考えて差し支えない。
つまり、水分活性を下げる過程で減らす水分は、この自由水なのである。
自由水を減らす方法は以下の手法が考えられる。
<乾燥させる>
その名の通り、風乾、天日干し、その他の乾燥法などによって、直接食品中の自由水の量を減らす手法。
この手法を用いた食品として代表的なものは、干し椎茸、切干大根、茶葉など。
派生として凍み大根、高野豆腐などがあるが、これは冷凍により物性を変性させ、その上で乾燥させたもの。
<塩漬け、砂糖漬けにする>
塩漬けや砂糖漬けにし、浸透圧の差を利用することによって、自由水を脱水する手法。
特に塩漬けを利用した保存食は、日本はもちろん、世界中で見られる。
塩漬けの食品が長期間保存できるのは、このように食品中の自由水を奪い水分活性を下げているからに他ならない。
ちなみに、同等の水分活性を得るために要する糖分の量は、塩分に比し格段に多い。
日本の保存食の塩分濃度が10〜20%程度のものが大多数である中、砂糖を使った保存食であるジャムの糖分濃度は40〜70%程度にもなる。
塩漬けを利用した食品として代表的なものは、糠漬、干物、からすみ、ベーコン、生ハムなど。
このように、保存食品を作るためには、いかにして水分活性を下げるかと言うことに尽きる。
冒頭にも述べた塩が腐らない理由と言うのはまさにここにあり、塩は含水量が非常に少なく、なおかつ自由水が非常に少ない。また融点が非常に高く、常温の結晶で非常に安定と言うことなのだ。
つまり、水分活性を下げれば下げるほど、微生物類の繁殖を抑えられるわけだ。
ところで、微生物類といっても様々いる。
水分活性への耐性が弱い順から、大まかに記してみる。
一般細菌類<ボツリヌス菌<酵母<カビ
諸説あるが、大体こんな感じで間違いない。
食肉の加工品、飯寿司などで、古くからボツリヌス菌による食中毒があるのはこの辺りからも想像に難くない。
さらに、カビが水分活性の低い環境に著しく強いのは、保存食品を作ったことがある人ならよくわかるだろう。
保存食品、発酵食品においては、腐敗はしなくとも、カビが生えることは非常によくあること。
このように、塩漬けにより、先人達は数多くの保存食品や発酵食品を作ってきた。
もちろん、それそのものがおいしいからと言う理由ではなく、必要に迫られてやっていただけ。
その昔は保存料をはじめとした添加物などと言う物質は存在しない。塩を使うしかなかったわけだ。
水分活性などと言うことを知ってたわけではない、経験からそうする事ができたのだ。
さて、話が色んな所に飛び火してしまったが、結論をまとめてみる。
・塩が腐らない理由と言うのは常温で非常に安定な結晶であると言うこと
・さらにその塩を使うことによって、食品の水分活性をいかに下げるか(水分を抜くこととほぼ同義)ということが、食品を長期にわたり保存する最大の手段となる。
・腐敗と発酵は表裏一体であり、紙一重。どちらも微生物類の生命活動の過程。つまりほとんど人間が手を加えることなくごく自然に起こる。
人間にとって有害な物を腐敗と呼び、有益な物を発酵と呼び分けているだけ。
塩って素晴らしい!
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