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能登にある民宿
「さんなみ」に行ってきました。
ご主人の船下智宏さんは郷土料理や発酵食品など、この能登地方に伝わる伝統の料理を継承し、提供し続けることでも有名。
「いしり」をはじめ、ありとあらゆるものが自家製であることも非常に魅力的。
もう何年も前から行きたかったが、ついに今回行く機会に恵まれました。

それだけに、
奥能登の郷土料理にこだわり続けてきた能登町矢波の民宿「さんなみ」が、3月末で店をしまう。電話予約をしたまさに翌日、こんな記事が地元の新聞に掲載されたのは衝撃だった・・・・。
→その記事はこちら結果から言うと、本当に本当に閉店が強く惜しまれる宿です。
宿泊は1泊2食付きで14700円(12歳以下は利用不可)。
1日3組限定。

掃除が行き届いた落ち着いた佇まい。
部屋も風呂も非常に簡素で、お世辞にも豪華とは言えません。
部屋は4人入るとちょっと狭く感じるくらいだろうし、風呂は共同で(交代で入る)、家庭用の風呂を広くした程度。
このあたりに価値観を求める方はこの宿に来ない方がいいでしょう。

では夕食です。
別室の食堂には囲炉裏が3つあり、そこを囲んで食事をする形。
食前酒船下さんの奥様手作りのかりん酒。
すっきりしてとてもうまい。

料理はすべて船下さんの丁寧な説明付きで提供されます。
自家製いしり貝焼き船下さんがご自身で作られた「いしり(いしる)」を使った鍋風の料理。
いしりはイカから作った魚醤で、こちらでは2年以上熟成させているらしく、普通に味わえるものに比べて角が取れ、とても旨みがある。
これにイカをはじめ、船下さん夫婦自ら無農薬で育てた新鮮な野菜。
めちゃくちゃうまかった。
天然のハチメ(メバル)炭火焼き塩は能登の天然塩。
変に焼きすぎることも無く、とてもうまい。
塩もマグネシウムを強く感じる味わい深い塩。魚介との相性抜群。
海餅(かいべ)いしりを使って炊いた米を潰してイカの軟骨や身を混ぜ込んで焼いたもの。
何とも言えない旨みの詰まった料理。しみじみうまい。
お造りサザエ、甘エビ、天然ブリ。
わさびは本わさび。
すべてうまいが、特に天然ブリが最高!
食感、うまみともに抜群。最高レベルの刺身。
ごま豆腐ごまの風味、上品な出汁。見るからに締まりがあり、とてもうまい。
田舎の民宿にありがちな変に甘い味付けや野暮ったい味付けは無い。味を構成する上での無駄な装飾なども一切無く、文句のつけようがありません。

ブリのヅケがすごくうまい!!
酒も進む!ご飯も進む!
ちなみに日本酒は奥能登の
「竹葉」のみ。
これでいいんです。
白子見るからに超新鮮でうまみも十分。そうそうお目にかかれないレベル。
写真には無いが、畑で取れたゆずの絞り汁を使ってもまたうまい。
鱈の子付けうまみの強い雄の鱈の身に、これまた旨みの強い雌の真子を付けてある。
右の赤い調味料は「ゆうなんば」と言い、ゆずを唐辛子と塩のみで漬け込んだもの。
あぁ・・・うまい・・・幸せ・・・♪
ヤリイカの刺身これにはいしりの原液を付けます。
合わないワケが無いです。もう悶絶。
エイの和え物変な臭みなど一切感じさせない上質なエイ。
当然うまい。
アワビの刺身アワビはそれ自体で非常に強い旨みがあり、食感もいい。
一緒についてくる肝を使って肝醤油にして食べましたが、うまいと言うしかありません。
漬物とってもキレイな味。
酒はもちろん、ついついご飯も進んでしまい、2合以上は食ってしまった。
デザートゆずのチーズケーキ。
こちらは娘さんの手作り。素朴なうまさ。

料理は見た目にも味付けにも非常にセンスがあり、単に田舎の素朴な料理というだけでは到底片付けられないレベルです。郷土料理好きにはたまらないと思います。
変な天ぷらなどが出ない点も非常に好感が持てる。
食器なども豪華絢爛な感じではないが、風情がありとてもセンスがある。
朝食も非常に楽しみ。大満足で就寝するのでした。

翌日の朝食はこれまた夕食とは違う魅力があり、見るからに締まりがあってうまそう。
旅館などで必ずと言っていいほど出てくる「温泉卵」や「海苔」や「乳製品」や「色合いのためだけに使用した野菜(トマトとかね)」など、
食事の中で意味をなさないものが全く無いという点はまさに僕の追い求めてきたもの。
3年物の「こんか鯖」3年以上の熟成を経て非常にうまみが強くなったこんか鯖(へしこ)。
角も取れており、当然塩気は強いが嫌な塩辛さが一切無い。
こんか漬けの概念を覆されました。こんなうまいものがあるなんて・・・・!
車麩と切干大根の煮物、ネギ味噌、自家製ピクルス、松前漬っぽい味の料理どれ一つとして全く手抜きなし。ご飯が進んで進んで仕方ない。

漬物もちゃんとうまいもんね。

ごはんとお茶はセルフサービスだが、ここはそれでいいと思う。
料理がうますぎて朝から3合ぐらい食ってしもうた。
鱈汁白子、肝、骨と供に煮込んであり、非常に旨みが濃厚。味はもちろんのこと、残さずおいしく頂くという意味でもとても素晴らしい料理。
器は合鹿椀(ごうろくわん)で、その昔はご飯を食べるために使用されていたもの。
大根と大根菜の塩もみ上にかかっている鰹節も自家製。とってもうまかった。
鱒のなれずし麹ではなく飯を使った、正真正銘のなれずし。
熟成感があるが、変な酸味などは無い。うまい!
ブリ大根非常に好みの味付け。

お茶はセルフサービスですが、この杜仲茶も
茶葉を育てるところから自家製。
個人的に好みそのまんまの料理が出てきましたし、料理一つ一つの手のかかり方がすごい。
決して豪華な食材を使った料理ではありませんが、年単位で熟成したものや、調味料なども含めすべて自家製であることを考えると本当に素晴らしいと言うほかありません。
手間と時間が作った料理は何にも替えがたい。
単に田舎の郷土料理というだけではなく、素晴らしいセンスもある。
そこらの料亭なんかと比べても手のかかり方が違いすぎるし、刺身一つとってもちょっとレベルが違う。抜群にうまかった。

朝食後には隣の部屋も見せていただいた。
ここには数々の保存食があります。

自家製の干物たち。
くちこや鰹節などなど。

からすみ、ゆべしなどなど・・・・。
そして船下さんから直々に貴重なお話もたくさん聞かせていただきました。
やはりとても素晴らしい考えの持ち主であることを改めて知ることが出来ました。
まだまだ食文化にも知識が浅い僕ですが、お互い食に対する考えを熱弁していると、話が止まらない(笑) お忙しい中1時間近くも熱い話を聞かせていただきました。
特に船下さんのおっしゃったことで心に残ったのは
「文化を薄めるな」と言う言葉。
船下さんは、今いしりなどが流行り出し、都会はもちろん、挙句の果てには海外でもいしりを使った料理が作られていることを嘆いておられた。
都会の人たちに興味を持っていただくことはとても重要だが、それは能登でだけで出せばいいことで、必要以上に文化を広めることはすなわち薄めることでもあると言うこと。
そんなことをして金儲けに走れば、まがいもの(添加物使ったりね)が蔓延ったりしないでもない。
そうなってしまえば本当におしまいである。
一度途絶えた食文化は絶対に元に戻らない。例えそこにレシピが残っていてもその味が分かるものがいなければそれが正しいのか正しくないのかが分からない。
もちろん能登に限らず、地方の食文化は絶対に絶やしてはいけない。
そして最後には船下さんに「こんな風に考えとる若い人もおるんやな。驚いたわ。いやぁー未来に希望が見えてきたわ(笑)」と感心していただけたのはお世辞でも素直に嬉しかった。
ちなみに話の中で
徳山鮓と
美鈴をオススメしていただきましたが、どちらも行ったことがありますよ、と言うとこれまた大変感心されました(笑)

個人的には好みそのまんまの宿であり、あえて点数をつけるなら
100点満点で120点つけたいくらい満足。郷土料理を出してくれる宿やお店には数多く訪れたが、ここは段違いに素晴らしい。
金額のことを言うのも野暮かもしれないが、気の遠くなるくらいに手の込んだ料理の数々が味わえて14700円で宿泊できることを思えばかなり良心的です。
ただ、ここは一緒に来る人を選ぶ宿でもあると思います。
料理以外は非常に簡素なので、好き嫌いが分かれるのもそうですし、なにより興味がある人でないとこの料理の
「本当の素晴らしさ」を理解し難い気がします。
もっと前にここへ来ることが出来ていたなら、僕は間違いなくリピーターになっていたでしょう。(実際すぐに予約を確認しましたが、閉店まで完全に予約が埋まっているそうです。)
やはり素晴らしいとしか言いようがありません。名残惜しいですが仕方ありません。
読者の皆様でさんなみへ行かれたことのある方はいらっしゃいますか?こういう宿はこの良さを共感できる人とだけ行きたいですね。
今後ここを超えるほど満足できる宿に巡り会えるだろうか・・・・・。
ありがとうございました!ごちそうさまでした!
そして40年間お疲れ様でした!!
<追記>船下さんから直々のメールが届きました。 泣きそうです。
先日はわざわざ遠いところまでお越しいただきましてありがとうございました。
私共も大変有意義な時間を過ごさせていただきました。
最近の若い方々は郷土料理や発酵食品などに興味を持っておられないのかと思っておりましたが、安心いたしました。
ついつい熱が入ってしまい、時間を忘れてお喋りしてしまいましたね。
今後益々食が変化していくのではないかと思っております。
いろいろ進化しながら変わっていくのも悪くはないのですが、基本は基本としてきちんと残しておくべきだと思います。
〇〇さんの年代の方々で頑張っていただけたら将来は何も心配いりません。
頑張って下さい。(抜粋)人気ブログランキングに参加しています。
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